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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)42号 判決 1958年7月29日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中田(略)の上告理由は後記のとおりである。

右上告理由第一点について。

原審は、原判示日時訴外福嶋政吉が本件立木を伐採した結果、動産たる伐木の所有権もまた上告会社と被上告人との相互の間では依然として互にこれを対抗し得ない関係にあつた旨判示していること判文上明白である。この判断の当否については後に説示するが、原判決には伐木所有権の帰属につき判断遺脱その他所論のような違法はなく、論旨は理由がない。

同第二点ないし第六点について。

立木法の適用を受けない立木の所有者が明認方法を施さないうちに、伐採その他の事由により右立木が動産たる伐木倒木等となつた場合には、立木の所有者であつた者は、当然右伐木等の所有者となるべきこというまでもないけれども、立木当時既に明認方法の欠缺を主張する正当な利益を有していた第三者に対する関係においては、(伐木等を自ら占有すると否とに拘わらず)伐木等の所有権を以て対抗し得ないものと解するのを相当とする。けだし、右伐木等の所有権は、伐採その他の事実により立木が伐木等の動産となつたことにともない、立木所有権にもとづいて生じたものであつて、いわばその延長にすぎず、従つて、立木の所有権取得を以て対抗し得ない第三者に対しては、これを以てもまた対抗できない筋合だからである。

原判決の確定した事実によれば、上告会社と被上告人とは、訴外福嶋政吉から立木法の適用のない本件立木所有権の二重譲渡を受けたが、いずれもこれにつき明認方法を施さないうちに訴外福嶋政吉がこれを伐採したというのであるから、本件両当事者は右立木伐採前互に相手方の明認方法の欠缺を主張し得べき正当の利益を有したものであり、従つて、前示の法理により、右立木が訴外福嶋政吉の伐採により動産たる伐木と化した後においても、互に右伐木に対する所有権を以て相手方に対抗し得ない関係にあるものといわなければならない。

されば、原審が、本件当事者相互の間において伐木の占有がその所有権対抗の要件であるが如く判示した部分はすべて失当であるけれども、上告会社において本件伐木所有権を以て被上告人に対抗し得ないことを理由として上告人の本件損害賠償請求を排斥した原審の判断は結局相当であつて、論旨はすべて採用し得ない。

同第七点ないし第九点について。

論旨摘録の原判示は単なる余論にすぎないから、この点を攻撃する所論は原判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背を主張するものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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